2020.8.29
■地方創生を成功させるには熱意や意欲を持つ「人材」が鍵である
前ブログ2つで地方創生のための「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の概要について説明しました。終了した第1期で掲げた東京圏への人口流入抑制目標は未達に終わり、その反省に基づいて第2期の総合戦略が制定されました(2019.12)。基本は第1期の継続ですが、「多様な人材の活用」という新たな項目が追加されたことは注目に値することを述べました。
こうした政府施策の施行について最初に指摘しておきたいことは、真に大切と考えられる施策も政府の後押しだけでは成果が出ない場合が多いということです。施策の実現に当たっては、産学官連携によるプロジェクト構築、計画に沿った予算投入などが鍵となりますが、それだけでは施策の実現、つまり社会実装は容易に進まないのです。第1期の5年間を振り替えてみて、多様で豊富な施策パッケージの投入でも前述したように目標にはほど遠い結果です。政府の助成事業で上手くいかなかったプロジェクトの例はいくつもあげることができます。例えば、行政の効率化を目指した電子政府(e-Japan)は今から20年も前に打ち出された政策です。今回の新型感染症対策の一環である各種給付金や助成金の支給が遅れに遅れた原因は、行政のデジタル化の貧弱さに一因があることが露呈しました。政府の掲げる政策の社会実装がいかにむずかしいかが如実に表れています。
そうした社会実装の困難さの原因はいくつか考えられますが、筆者は「施策目標や利益が適用先のステークホルダー(利害関係者、ここでは地方の住民)に共有されていないこと、あるいは施策に至る真のニーズやウォンツがステークホルダーのもつ本来のものと遊離していること」ではないかと推察しています。もう一つは、施策を社会実装する役割を担う人材の熱意や前向きな姿勢の不足があるのではないかと考えます。いずれにしても、施策に係る人、施策結果を受け取る人の問題であり、「横断的な追加目標」に掲げる「人材」に依存していると言えるでしょう。
別な言い方をすれば、地域の多様な住民が自ら動いて地域の発展に貢献していくことが求められているのだと考えられます。国や都道府県が地域の発展を目指して様々な施策、例えば中央省庁から人を地方へ派遣したり、プロジェクトの推進役を任命したりなど、を講じても、地域の住民がそれを自分のものとして認識し、実現に向けて活動しなければ目標達成はできない、とも解釈できます。
中央官庁や自治体側もこうしたステークホルダーとの協調といったことが重要である点に気づき、広報や啓蒙にも力点を置くべきではないかと考えます。ただ、行政に当たる方々は多忙なうえ、業務の間違いや失敗を許さない堅実性、部署間の担当範囲の固定化/壁といった問題が立ちはだかり、変化の必要性について、意識共有と実行が進みにくいことが推測できます。
「多様な人材の活用」を目標の一つに掲げるのであれば、もう一歩踏み込んでその「人材」の心情の部分にまで配慮すべきと考えます。総合戦略は言うまでもなく十分な検討の上に構築されており抜けが無いように見えます。インテリジェンスに満ち溢れていますが、そこにエモーションを注ぎ込んでほしいのです。人が幸せやうれしさを感じ、前向きに動けるように施策を仕上げたいものです。
他方、少子高齢化が進んでいるとはいえ、地方には多様な住民が暮らしています。多様な知見やスキルをもった、何事にも意識の高い人々が大勢暮らしています。地方をより住みやすく豊かなまちに変えていくことによって東京圏からの人の移動、転入を促進することが地方創生の目標です。地方創生に向けて政府の掲げる施策の実現には、地域の住民がもっている希望や願望とその目的地が一致することが基本です。その方向性を互いに一致させ共有することがまず求められるということです。
そのためには、地域に暮らす住民が「自分が住むまちをもっと良くしたい」という思いを増進することも必要です。税金を使って推進される政府施策をより効果的に活用して「より住みやすい、そして転入先として選ばれるまち」にしたいという気運を醸成し、具体的アクションにつなげていくことが肝要だと思います。
ただ、言うは易し行うは難し、です。地域をより良くしたいという意欲の高い人を見い出して適切な役割を担ってもらうこと、あるいはそうした意欲や熱意を抱く人を育てることなどが求められると思います。
私たちはこのような考え方にもとづいて、地方都市の未来像を描き、その実現に必要な道筋や方法を提言していこうとしています。その方針の一つに、「地方創生に対する市民の気運の醸成」を挙げ、市民目線で多くの市民と一緒に活動することを心がけています。素人集団ですが、調査や分析、そして議論を重ねつつ、微力ながら前進していこうとしています。
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