2020.9.X
■市内移動システムを創造するときに知っておきたい都市の新概念
本ブログを含めて3回にわたり、地方都市の移動システムについて取り上げます。その動向、考え方、将来像などを示し、地方都市が向かうべき方向性について議論します。。
住環境の最近の変化
地方都市では、中心街がシャッター通りになって景気低迷を象徴する風景となる一方、郊外型のショッピングモールへと生活・消費形態が変貌しています。これはクルマ社会の発展によってもたらされた近年の大きな都市構造変化です。しかしこれは、移動手段を持たない高齢者や女性をはじめとする多くの市民にとって、必ずしも快適な生活とは言えません。コンパクトシティ化といった都市機能を駅前などに集積するなどの提案もありますが、経済の停滞を伴う地域社会では、そうした都市構造の転換に対処できる余裕は無く、市民生活へのしわ寄せが顕著になりつつあります。
日本国内の地方都市のような人口減少や経済衰退が問題になっているわけではありませんが、米国の大都市でも同じような都市構造変化が起きています。過去、人々は都市郊外に大きな家を持ち、自家用車でダウンタウンへ通勤し、週末はショッピングや家族だんらんを楽しむ生活に豊かさを求めました。しかしその結果、無計画で無秩序な都市の拡大(スプロール現象)を招き、弊害が生じることとなりました。交通渋滞、排気ガス増大、気候変動といった問題です。また、市民一人一人の日々の生活に対する満足度も低下したと言われています。家計支出の増加や地域での人々の交流の減少などがその要因です。
新しい都市デザインの理念
こうした変化に対して都市構造を新たに構築しなおそうという動きが活発になっています。都市デザイナーで建築家のピーター・カルソープは、「より良い都市を作るための7原則」として次のような新しい理念を提唱しています[1]。
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保全:自然環境、歴史、農地景観、文化遺産などの保全。地域の自然と緑、文化などの財産を大切に守ろうという考えです。
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複合:様々な所得階層や年齢層の混合、様々な土地利用などを考慮した複合開発。一部の集団に偏らず広く市民に利益を行きわたらせようとする考えです。
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歩き:歩行を促す道路、人間サイズの街並み、散策や遊歩したくなる街にするという考えです。主要駅から約1.5km以内は徒歩圏。
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自転車:我々の最も効率的な移動手段である自転車の環境整備と普及を図る考えです。自転車道路網と歩行者天国。(コペンハーゲンでは市内移動の42%が自転車との報告があります。)
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結合:単一の経路だけでなく色々な経路が選べる道路網、区画規模の制限、スムーズな乗換えを実現するというものです。
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乗り物:高品質な交通機関(LRT*1)、BRT*2)、地下鉄他)、安価な高速バス網などを活用する考え方です。
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集中:交通許容量に比例した都市密度、交通機関に基づいた階層構造を構築するという考えです。
このような理念に基づいて、ロスアンジェルス(LA)では既に10年ほど前から、高速道路の拡張・拡大を停止し、交通機関の整備に投資が振り向けられています。近代都市と認識されていたあのLAが新しい理念にもとづき、都市構造を転換しようとしているのです。
スプロールという負の遺産は中国でも顕著になっています。交通渋滞や排気ガスによる健康被害が市民に与える悪影響を回避するため、都市構造を革新しようとする動きが活発になっているのです。実際、カルソープは重慶市からの依頼により、緑にあふれ、歩行と自転車を中心とした小規模コミュニティを基本とする都市構造への変革を進めています。モータリゼーションの進展した高度成長期以前の、自然との協調、市民の心の豊かさなどを求める人間本来の生き方への回帰といえるでしょう。
まとめ
以上、このブログでは、地方都市の課題と米国における都市の現状を示したのち、今後取るべき都市デザインの新概念について紹介しました。この概念は、自然環境や人間生活をあるべき姿に回帰させようとするもので、世界中で大きな動きになっています。次ブログでは、自家用車非依存という視点から未来の都市社会を考察します。
*1) LRT:Light Rail Transit
*2) BRT:Bus Rapid Transit
参考:
[1] Peter Calthorpe:“7 principles for building better cities”, https://www.ted.com/talks/peter_calthorpe_7_principles_for_building_better_cities
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