気候危機対策としての脱炭素化という人類にとって最大の課題に立ち向かう中、市民皆が生き生きと快適に生活できる手段の一つである市内移動システムの将来について議論します。
世界の2大課題は新型コロナと気候危機への対応
昨年10月の所信表明で菅首相は、2050年度のカーボンニュートラルを宣言し、また本年4月の日米首脳会談と同月の気候変動サミットで、2030年に炭素排出量を2013年比46%減の目標を宣言しました。きわめて挑戦的な目標設定ですが、世界的に見ればようやく先進諸国の仲間入りができたレベルとも言えます。6月2日に提示された政府の成長戦略では、新型コロナ対応と並んで、脱炭素化、すなわちグリーン成長戦略について今後協力に推進していく旨述べられています。これらは世界的なかだいでありタイムリーではありますが、ようやくここまで来たかという感は否めません。
その成長戦略では、脱炭素化に向けたエネルギー開発における重要テーマとして、洋上風力、水素、地熱を3本柱に取り上げています。現在日本で発電量の「80%近くを占める化石燃料依存の火力発電を再生エネルギーに変えていく必要があるというのです。火力発電の炭素排出抑制のためのアンモニア、合成メタン(水素と排出二酸化炭素利用)などにも言及しています。原子力は廃止とはしていませんが、抑制的な表現になっています。これらについては別の機会にブログテーマに取り上げたいと思います。いずれにしても政府が掲げる脱炭素化目標の達成は非常に難しく、政府による相応の財政投入と的確な方向制御が必要でしょう。
【参考記事】
こうして省エネ先進国だった日本は脱炭素後進国になった。原発と高性能火力に固執した理由 Jun. 08, 2021,
https://www.businessinsider.jp/post-236183
成長戦略からみる、日本の脱炭素環境の激変と将来像 再エネは洋上風力、太陽光、そして地熱発電の3本柱に
https://energy-shift.com/news/bb0838c6-9ee2-492c-83cf-76b56c886d54
カーボンニュートラルに向けた日本の国際的立ち位置 2021.1.28
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20210128.html
温室効果ガス排出の現状等(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ondanka_wg/pdf/003_03_00.pdf
2050 年カーボンニュートラル
に伴うグリーン成長戦略(案)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/seichosenryakukaigi/dai11/siryou2-2.pdf
脱炭素化に向けてモビリティ業界が変革へ
脱炭素化、グリーン化の機運の高まりに伴って、自動車業界は炭素排出の無い電気自動車(EV)開発強化に大きく舵を切ろうとしています。国家あるいは自治体レベルでも、今後の10~20年のうちには新車として炭素排出者を認めないなどの指針を示しているところがあります。
ではEV化によって本当に脱炭素化できるのでしょうか? 様々な議論がありますが、結論から言えば2050年ころまでには100%の脱炭素化は実現困難とみるのが正しいのではないかと思います。燃料電池車(FCV)を含めEVは、走行時に炭素排出がないことはご承知のとおりですが、エネルギー源である電力の製造(発電)時に化石燃料を用いるので、炭素発生が避けられません。前述したように、100%炭素発生の無い発電方式に転換するのはここ30年では不可能と見ます。大量の水素製造にも炭素排出を伴います。さらにはEV、FCVの生産工程で炭素排出を伴います。とくにバッテリー製造時の炭素排出が大きいと言われますし、車体を構成する鋼材製造時の炭素排出も解消できる見通しが立っていません(水素還元法の技術障壁甚大)。走行時だけでなく、ライフサイクルでの炭素排出が問題なのです。そうした課題を30年程度でクリアするには技術的障壁が高すぎると言えるでしょう。
技術開発のスピード、あるいは課題解決の時期の推測、すなわちイノベーションをいつ成し遂げられるかの予測はきわめて困難です。脱炭素化に向けてEV化は大きな流れですが、例えばあの自動車生産世界一のトヨタでさえハイブリッド車(HEV)やFCV開発を継続し、水素エンジンなどの新技術を含め多角的に将来を見据えています。
さらに言えば、従来型のガソリン車やディーゼル車が完全に消滅するかどうかわかりません。EVは現状でも高価格ですが、高度なICT技術や安全・自動運転機能の付加によって一層高額になると予想されます。充電ステーションの整備・拡大は計画されていますが、バッテリー切れや充電時間(~1時間)の問題が懸念されます。必ずしも便利なモビリティではないですし、価格の点を考慮すれば庶民には中古車の選択という自由が残されるはずです。要するに、車による移動、モビリティの利便性、利用率、規模などを現状のままに据え置くのであれば、脱炭素化の達成には限界があると思われます。
また、こうした状況が続けば、大きな社会問題である交通事故、とくに高齢者による事故の抑制につながりません。自動運転などICT技術の恩恵がそれを防ぐでしょうか? 次にその自動運転の現状と今後を見ていきましょう。
【参考記事】
カーボンニュートラルで問われる自動車メーカーのコスト意識、CO2削減コストは誰の負担か サプライヤー巻き込んだ取り組み不可欠
https://news.yahoo.co.jp/articles/dfa6983663de18f666f4a7b7db44384c5e5f4f88
自動車の二酸化炭素排出量に関する研究結果~環境に良いのは圧倒的に電気自動車~ 2020年11月14日
EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(後編)〜欧州で検討中のLCA規制とは 2021/02/17
https://energy-shift.com/news/aae2f203-cf16-4c95-8486-1d5fd6275898
EV製造時のCO2排出量はエンジン車の2倍以上! それでも電動化を促進すべき理由とは 2021/1/9
https://news.yahoo.co.jp/articles/c2183c681bc3964eaa1361b6833b28b07b330f6c
電気自動車の今後の動向・将来予測|EV車は日本国内で普及しない?
https://www.nikken-totalsourcing.jp/business/tsunagu/clm_detaile/clm_210422_1.html
自動運転の現状は?
自動運転と一口に言っても、実は自動運転機能の無いレベル0から完全自動運転のレベル5までの6段階に分類されています。最近販売されている車には自動ブレーキとかレーンキープとかクルーズコントロールなどの安全機能が完備されていますが、それらはレベル1または2に分類されます。現在実用化されている中ではレベル3が最先端で、一部の高級車に搭載されているのみです。それも高速道路での60km/h以下の渋滞時にレーン内自動走行を可能にするという、限られた条件下でのみ使用可能な運転支援装置といえるレベルです。人がハンドルやブレーキ・アクセル操作をしなくても済む完全自動運転レベル5については、まだ明確な実用化計画はなく、2030年代末に限定的な実用化の可能性が示唆されている段階です(テスラなど早期実現をほのめかしていますが、特殊な環境・条件であると推察)。
レベル5の実現までには、人間の目となる多数のセンサの統合・制御はもとより、得られたデータを基にした的確な判断、走行系の迅速・最適な制御などの技術的な壁を突破する必要があるだけでなく、ネット利用に起因したセキュリティ問題、さらには道路交通に関する厄介な法的問題への対処など含め困難が予想されます。とくに人と車の区別のない狭隘な道路が複雑に絡み合う道路体系の我が国での完全自動運転化のハードルは特段に高いと言えます。完全自動運転までには想像以上に課題が多く時間がかかることを再認識できるのです。研究開発に時間を要することに加え、安全性・信頼性に優れる装備のコストも相当程度になり、ひいては車両価格がかなり高価になるのは間違いないでしょう。完全自動運転のEVは一般庶民には手が出ない高級車になると思われます。
一方、運行環境が限定される公共交通機関では、人の監視の下でのレベル4程度の自動走行実証試験が全国で複数展開されています。こうした公共交通機関への自動走行の適用が早まる可能性が高いとみられています。
【参考記事】
自動運転レベルとは? 現在はどこまで進んでいるのか
投稿日:2021年2月9日
https://www.hitachi-solutions-create.co.jp/column/technology/automatic-driving-level.html
自動運転レベル3の定義や開発状況まとめ ホンダが2021年3月に車両発売
https://jidounten-lab.com/y_1679
自動運転について解説!開発の動向と将来的な実現性とは?
2020.10.27
https://genext.co.jp/media/self-driving/
自動運転はいつから実用化される?レベル別に実用化の期待時期、現状の開発状況や課題を解説 2021.01.28
https://www.macnica.co.jp/business/maas/columns/135715/
地方都市の移動システムはどうなるのか?
炭素排出ゼロが困難なEV化、庶民にとって経済的負担の大きい自動運転EV、といった難題のある中、市民皆が交通事故に遭遇することなく、地方都市内を自由に快適に移動できるようにするためにモビリティの将来はどうあるべきなのでしょうか? 最後に、そうした状況をクリアする方法の一つを提案したいと思います。基本方針は、公共交通機関網を整備し、自家用車や運搬用車両の数を減らして脱炭素化に貢献していくということです。
まず、経済産業省と国土交通省とが推進する、無人自動運転サービスの実現と普及に向けたプロジェクトによる以下のアニメーションをご覧ください。
自動運転サービスが実現・普及した都市・交通システムの将来像
https://www.youtube.com/watch?v=V2ip8ztGMpY
運転手がいない自動運転レベル4による移動や物流サービスの将来イメージが表現されています。その姿は都市の規模や構造に依存しますし、この通りに実現するかどうかわわかりません。ただ、市内移動には主要幹線のレベル4クラスBRT(Bus Rapid Transit)とそれに結合する(レベル4の)コミュニティバスとで構成されている点に注目です。乗り継ぎがスムーズで市内を自由に移動できるシステムの有効性、利便性が感じ取れます。
こうした市内移動システムの基本概念と実用化案については、別ブログで紹介していますので参照ください。当市においても、脱炭素化による気候危機対策の推進とともに、記述した交通の将来像を的確に描きながら市の都市計画ビジョンを練り上げていくことが望まれます。
【参考記事】
[本ブログの別ページ]
市内移動システムを創造するときに知っておきたい都市の新概念
地方都市内の移動システムを自家用車に依存しないという視点で考えてみる
地方都市の新しい移動システムを想像してみる
参考 第12回 自動走行ビジネス検討会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono...
以上
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