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人工知能(AI)が都市の未来像を描く

 

変革が必要、しかし向かうべき未来の予測は難しい

 

 歴史を振り返ってみれば、人類は様々な危機を乗り越え、より良い暮らしを実現してきました。「危機において、強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ。」というダーウィンの名言にもあるように、人は幾度もの危機に直面しても柔軟に変化をとげながら、現在の繁栄を手にしてきました。

 

しかし、新型感染症への対処方法に大きな前進が見られてきたのもつかの間、超大国による理不尽で残忍な侵略戦争に起因して、世界情勢、経済、エネルギー、などにおいて不確実な危機がもたらされています。根本的な考え方を変える、パラダイムシフトが必要との意見もありますが、複雑性と不透明性のためにどう変化すべきか、だれにも見通せない不安を抱えているというのが偽らざる現実でしょう。

 

 漠然とした危機感の中で、持続可能な社会を築いていくべきことに異論はないと思われます。しかし、2030年の達成を目指す持続可能な開発目標SDGsは実現の困難さが一層増しています。SDGsで掲げられる17の目標*1)は、国や地域によって対応方法や項目ごとの優先順位づけが異なり、最適かつ独自の具体策開発と適用努力が必要であることは認識されながらも、採るべきベストな解答は与えられていません。限られた時間と資源の中でどのように対処すべきかの意思決定には、大きな困難が伴います。あいまいで複雑な未来予測を乗り越える改革が求められます。政治、行政に任された重い課題と言えます。

 

コンピューターに未来予測を手助けしてもらう

 

 一方、デジタル化(Digital transformation、DX)の進展は著しく、IoTやAIといった革新的なテクノロジーは既にかなりの実用化が進んでいます。さらに、メタバース、Web3.0、NFTなどといった新たな動きが出現しています。こうした動向については別なところで触れたいと思います。

 

前置きが長くなりましたが、ここでは、AIを用いた意思決定支援の応用として、政策提言AIの現状について紹介します。AIによる機械学習*2)技術を駆使し、あいまいで複雑な要因の関係性や時間変化を予測して、政府や自治体が取るべき将来計画の立案に寄与しようとする技術です。

 

 具体的内容については、参考資料[1][4]を参照してください。とくに[1][2]の動画の視聴で概要が把握できると思います([1]は約1時間、[2]は約30分)。要点をまとめると、テーマを「2050年の日本社会の持続可能性」とし、①情報収集(モデル化)、②選択肢検討(未来シナリオ列挙)、③戦略選択(未来シナリオ解釈・政策提言)の3ステージで問題にアプローチしようとするものです。

 

特徴的なことは、世の中のビッグデータをベースに、すべてをAIで処理して解を出そうとするのではなく、人間の知恵を活用してあいまいな要素も取り込んで、複雑な将来シナリオ予測の部分にのみAIを適用するという考え方を採用している点です。つまり、①と③は人間(有識者)が担当、②にのみAIによるシミュレーションを適用しています。専門人材を集めたとしても、人間の能力では思い描ける未来シナリオの数には限りがあるので、そこにAIの能力を導入しようとする試みです。ここでは実際2万通りの未来シナリオが列挙されました。

 

政策提言AIがもたらしてくれること

 

 検討の結果、2018年を起点として未来シナリオが分岐していき、8年から10年後に都市集中シナリオと地方分散シナリオが分かれていくという動向、および選択した複数シナリオそれぞれについて、人口,財政,地域,環境・資源,雇用,格差,健康,幸福という社会指標8つの観点で2052年を予測・評価(2018年と比較し、数値が向上・好転している指標を,低下・悪化している指標を×、変化が少ないものをで表現)など興味深い事柄が報告されています。すべてが現状より向上する(すべて)というシナリオは見当たりませんが、未来ビジョンの共有、それに基づく総合計画策定に向けた合意形成などに有効性を発揮できるものと期待されます。

 

 この技術に依れば、日本社会の未来予測および政策提言だけでなく、地方自治における長期的総合計画はもとより、個別の課題に対する将来シナリオの描画と最適化などにも応用可能です。関係する様々なデータ、アンケートなどによる住民の要望などを収集し、最善の政策策定につなげられる可能性があります。

 

例えば、地方都市の公共交通機関網のあるべき姿について、エネルギー、気候変動(脱炭素化)、経済発展、移動の利便性、住民の健康や幸福、など相互に関連する複数の社会指標を評価して、ベストな解を導き出すなどに活用できる可能性があります。まだ試行段階にあり、様々な角度から検討する必要のある開発途上の技術ですが、未来像を的確に描き出し、市民の幸福に寄与できる潜在力の高い技術と感じます。

 

地方都市も変化を求め、将来予測とそれに基づく政策策定に挑むべき

 

 本市を含めた全国の地方自治体(正式には、地方公共団体)では、より住みよいまち、にぎわいと元気あるまち、魅力があり住み続けたいまち、子育て世代にやさしいまち、選ばれるまち、UIJターンしたいまち、などの目指すべき将来像をスローガンとして掲げ、限られた税収の範囲で具体的施策の執行に反映させています。しかし、どのスローガンもあいまい、抽象的であり、施行される政策が将来に向けて最善なのか、市政運営の改革が必要ないのか、など判断が困難です。

 

前述のように、世界情勢の複雑性、不透明性、将来不安が拡大するとともに、市民の要望の多様化、無関心層や現状肯定派の増大などによって、よりよくありたい意欲や向上心の低下、消極性が市民に蔓延しているかもしれません。行政側としても同様な理由から、思い切った一歩を踏み出せない状況にあるのではないかと推測されます。しかし、デジタル化の波は確実に強大化して押し寄せてくる現実を再認識すべきです。最近政府が公開したデータの相互運用性フレームワーク(GIF[5]などもその一端を示すものです。

 

現状維持を通すのではなく、変化することの重要性に気づき、新しい取り組み方に目を向け、可能性に挑戦してみる時期といえるのではないでしょうか? 紹介した政策提言AIは、試行価値のある取り組みの一つと考えます。

 

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1SDGsの17の開発目標):1)貧困、2)飢餓、3)健康・福祉、4)教育、5)ジェンダー平等、6)水とトイレ、7)エネルギー、8)働きがい・経済成長、9)産業と技術革新、10)人や国の不平等、11)まちづくり、12)つくる責任、つかう責任、13)気候変動、14)海の豊かさ、15)陸の豊かさ、16)平和と公正、17)パートナーシップ

 

2(機械学習):各種のデータから、「機械=コンピューター」が自動で「学習」し、データの背後にあるルールやパターンを見出す、データ分析方法の1つ。学習した成果をもとに「予測・判断」する。

 

 

■参考資料:

 

[1]AIを活用した未来構想と政策立案」プレゼン編(講師:

京都大学  教授 広井良典氏)【第12回データ分析セミナー 2021/9/21開催】

https://www.youtube.com/watch?v=0b4bVds_UOo

 

[2]AIを活用した未来構想と政策立案」質疑応答編

(講師:京都大学 教授 広井良典氏)【第12回データ分析セミナー 2021/9/21開催】

https://www.youtube.com/watch?v=xZft9JOVMto

 

[3]持続可能な未来の実現に資する「政策提言AI

https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2019/03/05c04/index.html

 

[4]政策提言AIの事例紹介

株式会社日立コンサルティング

https://www.chisou.go.jp/sousei/resas/pdf/12-3_dataseminar_shiryo.pdf

 

[5] 社会全体でデータの相互運用性を確保 デジタル庁が「政府相互運用性フレームワーク」を公開

https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2204/04/news038.html

 

 

以上