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■若い皆さんへのシニアからのメッセージ

 

日本人はここまで貧困になってしまった!

 

 コロナ禍によって減速した製造業や物流など経済の回復が期待された2022年でしたが、ウクライナ戦争という想定外の惨事が起き、世界経済は混乱の度を増しています。エネルギーや農作物などの供給が滞り、世界中でインフレ問題が深刻化しています。物価や光熱費などの値上げによって、私たちの日々の生活も益々厳しくなってきています。本来、経済が健全に成長しているなら、賃金も上昇するので、適度な物価上昇は必然であり、許容されるものです。概ね2%のインフレ、つまり安定的な経済成長が先進国では当たり前ということです。しかしながら、今現在のインフレは米国で8%、欧州で10%と異常な高さです。このインフレは国内でも追従する動きですが、それに加えて、日本では賃金が低く抑えられていることが厳しさを加速しています。ご存じのように、日本では90年初頭に起きたバブル崩壊後、経済成長はほぼ停止し、賃金は横ばいの状態が続いているのです。

 

 日本の平均賃金がどのくらい低いのか、具体的に診てみましょう[1][2][3][4]。先進国で構成されるOECD(経済開発協力機構)の2021年の平均は51,607ドルですが、日本は平均よりも少ない39,711ドル。24位となっています。G7の中では最下位です。注目すべきことは、日本はここ30年間でほとんど賃金が上昇していないことです。

 

1990年当時、日本の平均賃金は36,879ドル。英国やフランスよりも高い水準でした。米国の平均賃金は46,975ドルで、この当時から高水準でした。しかし、30年後の2021年と比べると、日本の平均賃金はわずかに3,000ドルほどしか増えていません。上昇率は約8%という低さです(年率0.3%以下)。それに対して、米国の平均賃金は74,738ドルですから、同じ30年ほどの間に27,000ドル(約6割)も増えているのです。率カナダ、ドイツ、フランスなども、30年間で1万ドル以上増えています。この30年間で日本は貧困な国へと落ちぶれてしまったと言えるでしょう。

 

日本の経済低迷は真実

 

 ここで示した数値は平均賃金なので、産業、業種によって異なることは勿論、日本では年功序列制、終身雇用制が一般的であり、年齢によっても異なることを含めて解釈する必要はあります。さらに、日本ではフリンジベネフィット(福利厚生、通勤費、住宅補助など)が加算される点も考慮すべきです。物価自体も長い間低く抑えられていたことも他国との相違点です。とはいえ、賃金上昇が無いままインフレが常態化しつつある上、景気が上向き、賃金が増えて生活が豊かになる見通しが立ちにくくなっていることは否定できません。

 

 低賃金な状況は日本経済が低迷し続けていることの反映です。経済状況を国際比較する場合、一人当たりGDPが用いられます。日本はその順位が90年に8位でしたが、2021年では28位と大きく低下しました(IMFデータ)。このことからも日本経済の凋落、国民生活の貧困化を裏付けます。「失われた30年」とよく言われます。バブル崩壊からの回復に手間取った上に、外的な経済ショック、大震災など経済低迷の要因は様々考えられますが、社会経済の構造改革、デジタル化への転換、成長をけん引するイノベーション、など変革への取り組みが置き去りにされてきたことが問題だったと思われます。

 

忘れてはいけない世代間の経験の差

 

 昭和の高度成長、バブル経済と失われた30年の両方を経験したシニア世代の多くは、こうした国内経済の低迷を残念に感じ、憂いているのではないでしょうか? 今日頑張れば明日はより良くなれる、という前向きな意欲に満ちた過去がありました。しかし、平成以降に社会人になった世代、それはちょうど団塊ジュニア(197175年生まれ)より後に生まれた世代になります。就職氷河期と呼ばれた厳しい時代を経験した世代です。そしてその後のミレニアル世代、ジェネレーションXの若年層です。

 

これらの若い世代は、社会に出たとたんに経済成長が停止してできた貧困の海に投げ出されたわけです。シニア世代とは物事の捉え方が大きく異なっていることが想像されます。これからの日本、そして地域を担う若い世代にはより良い社会への変革についてどのような意識を持っているのでしょうか?

 

若い人たちの生き方はどう変化しているのか?

 

 若い世代の生き方や考え方について、エール大学経済学部准教授の成田悠輔氏は次のように語ります[3]

 

◇今の若者は目先のことばかりで将来を考えられない状態にある。

今の若者は貧困状態にある。目先の生活や雇用のことで精いっぱいの人間に何十年も先のことを考えてくれ、グローバルなことを考えてくれ、といっても無理がある。世代格差というより世界や社会から虐待されているようなもの。

 

◇相手の立場に立つとか、高齢者や今後の日本などへの懸念に対して考える若者は少ない。

半世紀前と比べ、貧困と言ってもそこそこ生活できる。治安が良くまちはきれい、コンビニで安く好きなものを食べられる。銭湯とサウナでも入っていれば昔の貴族よりはずっとQOLが高い。貧困だけどそこから猛烈に抜け出したいという願望もない、という絶妙な状態にある。昔は貧困であったが希望があった。がむしゃらに頑張れば産業や社会を変えていけるという希望があった。今の社会でその希望を持つことはかなり厳しい。

 

◇今の状況を変えていこうとする意欲に欠けている。。

日本はここ数十年で良くも悪しくも大きくなり、成熟し、既得権益もあり、大きな組織もある、上の世代がしっかりと牛耳っている。今の世界で若者がちょっとやそっと頑張ってもどうにもならないという感覚。果実やリターンも期待できない。貧乏だけどそこそこ快適で、静かにしてぐったりと生きていく、という方向に多くが行ってしまうのはしょうがない。逆に、長い目で見た問題、社会の構造的な問題、グローバルな問題、を考えている人は既に日本を捨て始めていて外に出ようとしている。

 

◇「快適な絶望」の中で、死ぬことは無い、緩やかな貧困状態にこの社会は陥っている。

既得権益というか、これにすがっていれば大丈夫というものがだいぶ崩れ去っているのではないか。霞が関の官僚になりたいという願望が無くなっている。昔の輝ける大手企業ももしかして頼れない、入るとやばいところになっていないか。ここにすがっていれば安泰、勝ち組というものが無くなってきている。現役世代は総負け組。それが蔓延するとやけくそ、焼け野原からの立ち上がりが出てくるかもしれない。

 

 以上、やや過激にも感じますが、的を射ているとも言えるのではないでしょうか。実際、「若年層(18歳)アンケート」[6]によれば、「自分の行動で国や社会を変えることができると思うか?」という問いにYesと答えた比率は、最高のインドで約8割、米英韓で56割、中国約7割に対して、日本では27%という低い結果があります。18歳というまだ制度的に成人になって間もないことを割り引いても、成田氏のコメントは概ね正しいと言えるでしょう。

 

 若年層に内向き、無気力な思考が蔓延していることはよく言われますが、コロナ禍によってそうした気分や将来不安が増長していることはデータからも明らかなようです[7]。それが働き方や仕事への取り組み姿勢、ひいては生きることの価値観に影響を与えていることは容易に類推できます。仕事に打ち込み、地位や名声を得るなど成功を収める」ということよりも、「自分の趣味なども大事にしながら、家族と安定して暮らしていく」ことを理想としている人が多いとみられるのです[8]

 

新時代を担う若い世代への期待は大きい

 

 日本経済の凋落ぶり、若い世代の元気のなさという不本意な現実を目の当たりにして、日本の未来が思いやられます。しかし、そうした後ろ向きな事態を吹き飛ばし、前向きに進みたい希望を信じたいし、意欲を盛り上げたいものです。成田氏の言う「やけくそ」「焼け野原からの立ち上がり」といった駆動力が生まれるかもしれません。「開き直り」的な発想が推進力を生む場合もあります。改革や前進は逆境や危機感が原動力になるとも言われます。

 

先に示した若者へのアンケートでは、国や社会を変えることはできないと考える人が多数を占めている結果でしたが、見方によれば3割近くの人が「変えられる」と思っているとも解釈できます。社会人との意識がまだ成熟していない18歳の若者の10人に3人が前向きな意識を持っていることを力強く将来有望と捉えたいと思います。

 

若い世代の生きがい・やりがい

 

 将来への希望を抱いている最近の若い世代が、人生観や仕事観についてどう考えているのか調べてみましょう。一例として、東大卒業生の進路の変化に関する記事[9][10]が参考になります。それによると大きな流れとして、従来主流だった官僚は半減、銀行・商社・大手企業も減少し、逆に外資系コンサル(マッキンゼー、ボストン、ベーンなど)、およびIT系が増加しているようです。

 

「今の時代、一生安定な職業などない、高い給与水準に加え、自らの成長とやりがいを重視する環境を選びたい」という発想なのだと言います。リスクはあっても高いリターンを求めて挑戦することに生きがいややりがいを見出したいという意欲の表れと思います。

 

20年度の大学発ベンチャー(スタートアップ含む)の数は、東大では323社(19年度の268社から急増)とのデータもその裏付けです。コンサルへ就職した場合も、仕事をステップに、起業やキャリアアップを目指す例も少なくないとのことです

 

 そうした中、政府もスタートアップ支援を新たな経済政策の大きな柱の一つと位置付けています。次にこの辺の事情について触れていきましょう。

 

世の中に変革をもたらすスタートアップ

 

スタートアップとは、新たなビジネスモデルで世の中に価値を生み出すことと定義されます[11]。「世の中にイノベーションを起こす」「社会貢献に資する」「短期間で急激に成長を遂げる」などの特徴があります。単に新規事業を起業するベンチャー企業の枠にはとどまらない、革新性の高い企業です。GAFAとも称されるGoogleAppleFacebook(Meta)などが代表例です。

 

スタートアップの原点は何と言っても、急速な成長を可能にするための革新的な技術やアイデアであることは言うまでもありません。デジタル技術やインターネット技術を駆使して、社会課題解決や顧客満足に対応するのです。想像力とチャレンジ精神に満ちた若い世代に相応しい目標と考えられます。それを成功させるためには、大きくわけて資金調達、ビジネスモデル、人材確保という3つのポイントがあります[11]][12]。難関を乗り越える必要がありますが、意欲に満ちた若い世代には、大きな挑戦の機会が到来しているのです。実際、様々な事業分野で数多くのスタートアップが若い人の手に寄り短期間で立ち上がっています[13]

 

地方創生にもチャレンジ精神を期待

 

 スタートアップの事例として巨大に成長したGAFAのような先駆者を示されれば、挑戦しようとする意欲はあっても現実的には無理、というのが多数意見かもしれません。しかし、予測困難な時代、小さく生んで周囲からの栄養を得ながら、少しずつ成長させていく、あるいは一度は失敗してもそれをバネにして次のステップへ踏み出し成功に近づける、といった前向きな姿勢が肝要と考えられます。舞台を地方都市に置いてみてください。アイデアのネタは沢山うずもれていると確信します。本市を取り上げても、まちなかをイメージチェンジして元気とにぎわいをもたらす、公共交通機関(モビリティ)を刷新する、ビーチの魅力を格段に高める、子供たちの学びの改革に貢献する、地域の産品を磨き市場を拡大する、などの視点に立てば、多様なビジネスアイデアが創生できます。そのための支援組織・制度も備えられています。あとは若い世代のチャレンジ精神の如何のみです。

 

 W杯での奇跡の逆転劇には感動しました。高いスキルを身に着けた若い選手たち全員が、内なる熱い意欲に燃えていたと強く感じました。勇気と元気をもらうとともに、若い世代にはこうしたスピリットが期待できると安心感さえ抱きました。

 

まとめ:協創に向けて

 

 日本経済の長期低迷、低賃金の現状から話を起こし、若い世代の意識が委縮している現状に触れた後、起業を目指しそこにやりがいと生きがいを見出そうとする若者がいることを述べました。スタートアップ支援という経済再生の肝ともいえる政策のもと、挑戦する意欲のある若者にはまたとないチャンスが到来している、それは地方創生という土俵上でも貴重な機会であることを指摘するとともに大きな期待を寄せたいと思います。

 

 少子高齢化、人口減少に起因した経済成長の鈍化に加えて、今後は気候変動問題への対処という地球規模の課題へ対応していかねばならないという現実は避けて通れません。SDGsも強く意識する必要があります。そうした中でも私たちシニアは、より住みよい地方都市のために微力ながら貢献したいと活動しています。ただ、未来のあるべき姿を熟考し提案したとしても、それを社会に実装していくことは困難であることを痛感しています。その壁を打ち破るには、広く市民、とくに若い世代へ共感と理解を拡げていく必要があります。私たちの狙いである、一緒に協力して創り上げていくという「協創」が欠かせないのです。

 

 以上では「若い世代」と表現しましたが、これから就職を迎える学生、一度就職したが次のステージを夢見る人などだけでなく、社会経験を積みながら更なるステップアップを抱いている意欲に満ちた社会人も含めますし、そうした方々を協創のパートナーと考えています。「若い」とは年齢ではなく、社会をより良くしたいという意欲、熱意、想像力のある人たちを意味します。夢中になれること、楽しいと感じられることに取り組みたい意欲、願望のある市民と言い換えても良いと思います。この文章を読んでくれた若い世代の方々との協創の機会が持てることを強く願っています。

 

 

■参考資料

 

[1]韓国にも抜かれた!日本人の給料が上がらない信じられない現実https://news.yahoo.co.jp/articles/fc59e3342bc93d99b834056beb6b7029c42d5e69

[2] 日本の平均賃金はG7の中でダントツ最下位 世界の中では何位?

https://fpcafe.jp/mocha/3450

[3]日本の平均賃金はアメリカの半分になってしまった

PRESIDENT Online

野口 悠紀雄

https://president.jp/articles/-/61850

[4]日本人は国際的に低い給料の本質をわかってない

アベノミクスにより世界5位から30位に転落した

野口 悠紀雄

https://toyokeizai.net/articles/-/458676

[5]1人当たりGDP2000年の2位から28位へ後退、「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される

10:01 配信

https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/20220725-00605668-toyo-column

[6] 一柳良雄が問う日本の未来【グローバル人材になるための3つのヒント】 BSテレ東2022115

[7] 若者の半数が「何もしたくなくなる、無気力」な気持ちに変化 3人に1人が「関係構築」「対人スキル」への影響を不安視

202216

https://www.jrc.or.jp/press/2022/0106_022802.html

[8] Z世代・働き方と仕事の価値観とは?【2022年最新調査で考察】

https://career-research.mynavi.jp/column/20220407_25603/

[9] 【東大生の就職先】20年で激変 官僚は半分、銀行・商社からコンサル、ITへ 11/2() 12:10配信

https://news.yahoo.co.jp/articles/c8082f52a41a2f5ce33fd9eda2a1f28e06f3ab91

[10] 今どき東大生が憧れる就職先は「MBB」 官僚は人気薄

2021/12/26

https://style.nikkei.com/article/DGXZQOLM1571R0V11C21A2000000/

[11] スタートアップを成功に導くポイントと成功事例を詳しく解説!

https://the-owner.jp/archives/7545

[12] スタートアップ躍進ビジョン 2022315

一般社団法人 日本経済団体連合会

https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024_honbun.html

[13] スタートアップ事例20選!業種別に紹介

https://shukatsu-venture.com/article/306579